2016年10月11日火曜日

町村長の郡制廃止意見 2


 

「個人団体提出整理意見○郡制廃止ノ件ニ付意見書 高知県 西尾常則外十名」(2)
出典:『公文別録・臨時制度整理局書類・大正元年・第八巻・大正元年』
  国立公文書館デジタルアーカイブ https://www.digital.archives.go.jp/
  請求番号 別00158100 

【釈文】
近時最モ下級公共団体ノ苦ミツヽアル郡費ノ膨張ハ主トシテ
地方政党ノ党勢拡張ノ為メト自己選出地ノ利害ノ打算ヨリ来
ル事業ノ競争ニ原ケルハ争フ可ラサルノ事実ナルモ此ノ競争
心ヲ利用セントスル郡当局者ノ対郡会策ハ愈々益々此悪弊
ヲ助成セシメタル事実アリ斯ノ如ク一方ニ於テ地方政党ハ党勢
拡張策ト選出町村ニ何等カノ利益ヲ齎サンガ為メニスル
交換的小策盛ニ行ハレ或ハ土木ト言ヒ或ハ補助ト言ヒ全
力ヲ挙ケテ之ヲ自家町村ニ獲得セントスル代リニ他ノ町村ニ
於ケル不急ノ事業ヲ助成セサル可ラサル急所ヲ捉ラヘテ郡当局者カ
議員ヲ操縦シ議員ハ亦自己選出町村ノ利害ヲ見テ郡全般
ニ渉ル利害ヲ考ヘス郡当局者ハ窃ニ自己ノ位置ニ及ボス私的利益
ヲ考ヘテ郡公共ノ利害ヲ見サル場合多ク故ニ一方ニ於テ利益問
題ノ起ルニ当リテハ必スヤ亦他方ニ於テ之ニ対スル交換的事業ノ
提案セラレサルコトナク二者相須ク不急ナル事業ノ濫設トナリ補助
費ノ濫給トナリ無用ノ経費ハ之レカ為メニ年ヲ追フテ激増ノ勢ヲ
馴致シタルモノナリ斯カル情弊ノ伏在セル者ニ対シ経費ノ整理
緊縮ヲ望ムハ寧ロ不可能ノコトヲ責ムルニ異ナラズ若シ住□
達観シテ直言スレハ今日ノ如ク郡ニ不急ノ事業濫設セラレ或ハ
無用ナル補助費ノ濫給トナリ為メニ経費ヲ激増シテ町村ヲ苦メ
ツヽアル直接ノ責任ハ郡当局者ト地方政党ノ間互ニ軽重厚
薄ナシト雖ドモ二者ニ対シテ如斯余地ヲ与ヘ町村ノ進歩発達ヲ
阻害スルノ甚シキニ至ラシメタルモノハ府県制、市町村制ノ如キ課税
ニ関スル法律上ノ制限ナキ経費ヲ町村ニ分賦シテ徴収シ得
ル郡制其ノモノヽ罪ニ帰セサル可ラズ若シ依然トシテ現行郡制
ノ下ニ在テ町村カ無制限ノ郡費分賦ニ応セサル可ラストセバ
政府ニ於テ急言疾呼セラレツヽアル地方財政ノ整理ト緊縮
論ノ影響ハ結局最下級ノ団体タル町村ノ財政ヲ搾ルノ始
末ニ終ラン某等ハ敢テ矯激ノ説ヲ立ツルモノニアラズト雖ドモ
現行郡制ハ速ニ之ヲ廃止セラルヽモ何等地方ノ振興ニ妨ケヲ
来スノ虞ナキノミナラズ郡制ノ廃止ハ反テ町村振興ノ妨害ヲ
排除スルモノタルヲ信スルノ理由ヲ有スルモノニシテ苟モ地方自治ノ
実際ニ通暁スルモノハ悉ク某等ノ同論者タルヲ確信スルモノナリ
(つづく) 

【読み下し文】
 近時最も下級公共団体の苦みつつある郡費の膨張は、主として地方政党の党勢拡張のためと、自己選出地の利害の打算より来る事業の競争に原(もとづ)けるは争ふべからざるの事実なるも、この競争心を利用せんとする郡当局者の対郡会策は、愈々益々この悪弊を助成せしめたる事実あり。かくのごとく一方に於て地方政党は党勢拡張策と選出町村に何らかの利益を齎(もたら)さんがためにする交換的小策さかんに行はれ、あるいは土木と言ひ、あるいは補助と言ひ、全力を挙げてこれを自家町村に獲得せんとする代りに他の町村に於ける不急の事業を助成せざるべからざる急所を捉らへて郡当局者が議員を操縦し、議員はまた自己選出町村の利害を見て郡全般に渉る利害を考へず、郡当局者は窃(ひそか)に自己の位置に及ぼす私的利益を考へて郡公共の利害を見ざる場合多く、故に一方に於て利益問題の起るに当りては必ずやまた他方に於てこれに対する交換的事業の提案せられざることなく、二者あいすべからく不急なる事業の濫設となり、補助費の濫給となり、無用の経費はこれがために年を追ふて激増の勢を馴致したるものなり。かかる情弊の伏在せる者に対し経費の整理緊縮を望むは寧ろ不可能のことを責むるに異ならず。もし住□を達観して直言すれば、今日のごとく郡に不急の事業濫設せられ、あるいは無用なる補助費の濫給となり、ために経費を激増して町村を苦めつつある直接の責任は郡当局者と地方政党の間互に軽重厚薄なしといえども、二者に対してかくのごとき余地を与へ町村の進歩発達を阻害するの甚しきに至らしめたるものは、府県制・市町村制のごとき課税に関する法律上の制限なき経費を町村に分賦して徴収し得る郡制そのものの罪に帰せざるべからず。もし依然として現行郡制の下に在て町村が無制限の郡費分賦に応ぜざるべからずとせば、政府に於て急言疾呼せられつつある地方財政の整理と緊縮論の影響は、結局最下級の団体たる町村の財政を搾るの始末に終らん。某等は敢て矯激の説を立つるものにあらずといえども、現行郡制は速にこれを廃止せらるるも何等地方の振興に妨げを来すのおそれなきのみならず、郡制の廃止は反て町村振興の妨害を排除するものたるを信ずるの理由を有するものにして、いやしくも地方自治の実際に通暁するものは悉く某等の同論者たるを確信するものなり。
(つづく) 

【コメント】
 前回の続きです。
 郡役所の職員と郡会議員のそれぞれの事情によって無駄な事業が行われ、郡費を提供している町村の負担が増している、その原因は郡費を制限なく町村に課すことが可能な郡制という法律にある、町村の振興のためには郡制の廃止が必要だと主張しています。
 郡制については前回のコメントをご覧ください。
 読めない文字が1文字ありましたので、「□」で示しています。読める方がおられたらご指摘ください。

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