2016年10月5日水曜日

町村長の郡制廃止意見 1



「個人団体提出整理意見○郡制廃止ノ件ニ付意見書 高知県 西尾常則外十名」(1)
出典:『公文別録・臨時制度整理局書類・大正元年・第八巻・大正元年』
  国立公文書館デジタルアーカイブ https://www.digital.archives.go.jp/
  請求番号 別00158100
 
【釈文】
    郡制廃止之件ニ付意見書
某等謹テ書ヲ西園寺臨時制度整理局総裁閣下ニ奉リ敢テ
郡制廃止法律案ヲ帝国議会ニ提出セラレンコトヲ切望シ而シテ
郡制ノ廃止ハ地方費ノ軽減ト自治体ノ革新発展ヲ図ル上ニ於テ最
モ痛切ナル方法手段タルヲ確信スルモノナリ
某等平素身ヲ町村行政機関ノ班ニ置ク者焉ンゾ其法規ノ与フル
権限ノ範囲ヲ知ラサルモノナランヤ知テ而シテ敢テ閣下ニ郡制廃止ノ
急ヲ訴フル所以ノモノハ近時政府カ憂慮セラレツヽアル地方財政ノ
整理ト一ハ自ラ信スル自治団体ノ故ナキ重負担ヲ免レシメ以テ其発
展振興ヲ熱望スルノ余リ最早黙々ニ付スルニ忍ビザルモノアレバナリ
区々タル権限論ニ拘泥シテ言フベキヲ言ハサルガ如キハ真ニ国家
ヲ思フ者ノ為ス可キコトニアラサルヲ信ス何ンソ猥リニ論ヲ好ンテ閣
下ヲ煩スモノナランヤ
(つづく) 

【読み下し文】
    郡制廃止の件につき意見書
 某等、謹で書を西園寺臨時制度整理局総裁閣下に奉り、敢て郡制廃止法律案を帝国議会に提出せられんことを切望し、而して郡制の廃止は、地方費の軽減と自治体の革新発展を図る上に於て、最も痛切なる方法手段たるを確信するものなり。
 某等、平素身を町村行政機関の班に置く者、焉(いずく)んぞその法規の与ふる権限の範囲を知らざるものならんや。知て而して敢て閣下に郡制廃止の急を訴ふる所以のものは、近時政府が憂慮せられつつある地方財政の整理と、一は自ら信ずる自治団体の故なき重負担を免れしめ、もってその発展振興を熱望するの余り、最早黙々に付するに忍びざるものあればなり。区々たる権限論に拘泥して言ふべきを言はざるが如きは真に国家を思ふ者の為すべきことにあらざるを信ず。何んぞ猥りに論を好んで閣下を煩すものならんや。
(つづく) 

【コメント】
 1912(大正元)年の郡制廃止意見書です。
 長文なので、数回に分けて掲載します。
 今回活字化した部分では、郡制廃止を求める本意見書の要点を述べ、「権限ノ範囲」を超えて意見を述べる必要があると説明しています。
 本文書は、高知県の町村長の「総代」が提出したものです。「町村行政機関ノ班ニ置ク者」などと書かれているのはそのためです。
 ここで問題となっている郡ですが、当時は府県庁や市町村役場とは別に郡役所が置かれ、町村を監督していました。県会や町村会と同じように郡会(郡の議会)を持ち、郡会議員は選挙によって選出されていました。こうした郡のあり方を取り決めたのが郡制という法律です(「郡制」『国史大辞典』参照)。
 郡制については明治期からいろいろと問題が取りざたされていましたが、その一つが財源でした。郡は課税権を持たず、郡予算は市町村に分担させることによって成り立っていました。
 この文書でも財源問題が郡・町村の双方に悪影響を与えていることが指摘されます。

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